横浜地方裁判所 昭和41年(む)12号 決定 1966年1月27日
被疑者 三浦暉
決 定 <被疑者氏名略>
右の者に対する神奈川県集会、集団行進及び集団示威運動に関する条令違反並に道路交通法違反被疑事件について、横浜地方裁判所裁判官藤枝忠了がなした勾留請求却下の裁判に対し検察官村田恒から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
一 本件準抗告の申立の趣旨及び理由は、別紙準抗告及び裁判の執行停止申立書記載のとおりであるから、ここに引用する。
二 当裁判所の判断は次のとおりである。
(一) 一件記録によれば被疑者に対する右被疑事件につき、検察官より刑事訴訟法六〇条一項二、三号に該当する事由があるとして横浜地方裁判所裁判官に勾留の請求がなされたところ、同裁判所裁判官藤枝忠了が右各号に該当する勾留の理由がないとして本件勾留請求を却下したことは明らかである。
(二) そこで勾留の理由及び必要性の有無について考察するに、一件記録によれば、被疑者が勾留請求書記載の被疑事実につき罪を犯したと疑うに足る相当の理由があることは明らかであるが、被疑者は勾留裁判官の勾留尋問に際し自己の氏名、年令、職業、住居を述べ、今後の取調には間違いなく出頭することを確約し、且つ既にその身元も確認されていることが認められるから、被疑者に刑事訴訟法六〇条一項三号に該当する事由のないことは明らかである。そこで被疑者が同条二号に該当するか否かをみるに、一件記録によれば、本件事案は被疑者が許可条件違反の集団行進を指揮、せん動したというにあるところ、右は終始、予め警戒にあたつていた多数の警察官の目前で行われ、且つ被疑者はその現場において現行犯人として逮捕されたものであつて、既に現場写真の撮影、捜査報告書等の証拠資料も整い、しかも参考人が主として警察官であるから、被疑者の右現場における行動に関する限り、被疑者に罪証隠滅の虞れありとは到底認め難い。
しかるところ検察官は本件は頭初より計画的に行われたもので、計画、動員、共謀関係等についても捜査しなければ事件の全ぼうを把握しえず、ひいては被疑者の本件事案における役割、責任を明らかにしえない旨主張し、右の点に関する捜査が未だ進んでいないことは窺われる。そして右の点については事案の性質上、今後の捜査も被疑者側の参考人等の取調によるところが大きいこと、被疑者が前記の如く単なる参加者でなく、せん動者的立場にあること、及び被疑者が被疑事実等について終始黙秘していることが窺われるので、これらの点からみれば、被疑者に右の点についての罪証隠滅の虞れがないとはいえない。
しかしながら更に勾留の必要性についてみるに、もともと勾留は被疑者の身柄を確保すると共に、被疑者を関係者から隔離することによつて、相互影響を及ぼすことを防止し、もつて事案の真相究明のための障碍を防止することを目的とするものであるから、被疑者を勾留することによつて、右真相究明のための障碍を少くとも相当防止できることを予想しうる場合であることを要するものと解すべきところ、被疑者が本件関係者間において強度の影響力を有していたことを窺わしめる疎明もなく、且つ事案の性質に照らし、被疑者のみを勾留することによつて右捜査の障碍的行為を有効に防止しうるものとは認め難い、更に前記の如く、被疑者に関する限り既に構成要件的事実についての一応の捜査がなされ前記検察官指摘の点は実質的には主として被疑者の情状に関する事柄であつて、その間に自ら捜査の必要性の軽重があること等をも合わせ考えれば、本件において、被疑者に検察官の前記指摘する点につき若干罪証隠滅の虞れありとしても、なおかつ勾留の必要性を欠くものと解すべきである。
以上のとおり被疑者につき勾留の必要性がないものと認められるから、本件勾留請求はこれを却下するのが相当であり、従つて右請求を却下した原裁判はその理由を異にするも結局正当であり、本件準抗告の申立は理由がないから刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 福島昇 吉田修 新城雅夫)
別紙準抗告及び裁判の執行停止申立書<省略>